投資マンション基礎知識
原状回復工事の勘定科目は修繕費!例外や仕訳の注意点を具体例を用いて解説
賃貸経営にはさまざまな業務がありますが、会計処理は重要な業務のひとつです。特に、青色申告をしている事業者は、仕訳の方法で迷うのではないでしょうか。
では、原状回復工事の勘定科目はどれになるのでしょうか。一般的には「修繕費」として仕訳しますが、実は例外もあります。
本記事では、原状回復工事の勘定科目について詳しく解説します。さらに、その他の費用の勘定科目や投資物件を売却したときの仕訳方法も併せて紹介します。
目次
原状回復工事の勘定科目はなに?
原状回復工事の勘定科目は、さまざまなパターンがあります。
勘定科目は一般的に「修繕費」
原状回復工事を実施したときの費用は、一般的に「修繕費」として仕訳します。
しかし修繕費にはならず「資本的支出」に該当し、年度内の経費として処理できないケースがあるので注意が必要です。
資本的支出とみなされるのは、次のような工事内容です。
- 避難バルコニーや避難階段の設置などのように物理的に建物部分を付加する工事
- 住宅から店舗へ用途変更をするための模様替え工事
- 設備などの部品を品質や性能の高いものに交換する工事
原状回復工事で該当するケースは少ないでしょう。なお、ひとつの修繕金額が20万円未満か、おおむね3年以内の周期で行うものは「修繕費」にできます。
勘定科目を「立替金」にするケース
原状回復工事費用を敷金から充当するケースがあります。
敷金は、退去時に入居者負担分の清算を行い、清算後の残額を返還します。しかし、以下の場合は、いったん「立替金」として処理します。
- 清算前に原状回復工事費用の支払いをオーナーが済ませた
- 清算前に「未払金」などに計上した
敷金と退去時費用との清算が終了すると、敷金から立替金に充当した分は最終的に「雑収入」、立替金として支出した分は「修繕費」として処理します。これを具体的に仕訳すると、以下のようになります。
原状回復工事費用を敷金から充当した場合の仕訳例
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
普通預金 | 100,000 | 敷金 | 100,000 | 敷金受領時 |
立替金 | 50,000 | 普通預金 | 50,000 | 原状回復工事代金の支払時 |
敷金 | 100,000 | 立替金 | 50,000 | 敷金精算時 |
普通預金 | 50,000 | 敷金精算時 | ||
雑収入 | 50,000 | 修繕費 | 50,000 | 原状回復工事代金仕訳時 |
勘定科目を「特別損失」にするケース
- 原状回復工事費用が通常の範囲を超える
- 敷金からの充当や退去者が負担する原状回復工事費用では賄えきれない
上記のような場合は、「特別損失」として計上できる可能性があります。
たとえば、家賃滞納で退去した入居者の生活スタイルに問題があり、室内の壁面がカビだらけになったとします。それにより、全面的な内装工事が必要になったケースなどが該当します。
ただし「特別損失」は税務署の判断により適用できない場合があるので、事前に税務署に確認する必要があります。
その他の費用の勘定科目は?
会計処理の仕訳について、一度決めたルールは継続しましょう。仕訳の方法が決算期ごとに変わると、不正を疑われるおそれがあるため注意が必要です。
ここでは賃貸経営の一般的な会計処理における、原状回復工事以外の勘定科目も紹介します。
賃貸経営の勘定科目
賃貸経営の会計処理では、以下のような勘定科目が使われます。
賃貸経営で使う勘定科目
区分 | 勘定科目 | 摘要 |
収入 | 賃貸料 | 毎月の家賃収入 |
礼金・権利金・更新料 | 契約時や更新時に入居者が支払う費用であり、敷金は含まれず預かり金になる | |
名義書換料・その他 | 賃借権の名義変更時に入居者が支払う費用 | |
経費 | 給料賃金 | 従業員や個人事業主の給与は含まれず、青色事業専従者給与や白色申告の事業専従者の給与が該当する |
減価償却費 | 建物や設備の当該年度の減価償却費 | |
貸倒金 | 家賃を滞納した入居者から回収できない家賃 | |
地代家賃 | アパートなどの敷地を借地している場合の借地料や転貸している物件の家賃 | |
借入金利子 | アパートなどを購入するために金融機関から借入した返済金の金利分 | |
租税公課 | 賃貸事業に供している土地建物の固定資産税や都市計画税、取得したときの不動産取得税、事業税 | |
損害保険料 | 自然災害による被害をアパートなどが受けたとき、損害を補償する保険料 | |
修繕費 | 原状回復工事費用や小規模なリフォーム工事費用 | |
消耗品費 | 10万円未満または使用期間が1年未満のパソコンや事務用品など | |
固定資産等の損失 | 固定資産や繰延資産に損失が発生した場合に経費として算入できる費用 | |
雑費・その他の経費 | 上記の勘定科目に含まれない費用 |
経費にならない費用に注意
上記の経費科目の「雑費・その他の経費」として仕訳する費用の中には、経費として算入できない費用があります。
「雑費・その他の経費」に該当する費用は以下のとおりです。
- 仲介手数料
- 広告費用
- 管理費
- 交際・接待費
- 水道光熱費
上記の費用のうち、個人事業の場合は交際・接待費と水道光熱費は、賃貸経営に必要な費用のため、取引記録などで明確に区分できます。そのうえで家事と事業にどのくらいの割合で使っているかを分けて、事業分のみが経費となります。
専従者給与の特例とは?
法人が賃貸経営を行う場合は、人件費のすべてが経費になります。しかし、個人事業では配偶者や親族に支払う給与や賃金は、手続きをしなければ経費にできません。
個人事業における事業主以外の給与を経費とするには、以下2つの手続きがあります。
- 青色事業専従者給与の特例(青色申告者の場合)
- 事業専従者控除の特例(白色申告者の場合)
特例の利用が認められる要件は、それぞれ以下のとおりです。
特例を利用するための要件
特例 | 要件 |
青色事業専従者給与の特例 | 専従者とは青色申告する事業主と生計を一にする配偶者か親族で、その年の12月31日現在で15歳以上 |
その年を通じて6月を超える期間(継続でなくてよい)、専らその事業に従事している | |
「青色事業専従者給与に関する届出書」をその年の3月15日までか、専従者になってから2カ月以内に所轄税務署に提出する | |
経費として認められる給与額は「届出書」に記載された方法で支払い、記載された金額の範囲以内で支払われたもの | |
給与は労務の対価として相当と認められる金額である | |
事業専従者控除の特例 | 事業専従者とは白色申告事業主と生計を一にする配偶者またはその他の親族で、その年の12月31日現在で15歳以上 |
その年を通じて6月を超える期間(継続でなくてよい)、専らその事業に従事している |
また、控除額は次のいずれか低いほうの金額です。
- 事業専従者が事業主の配偶者の場合は86万円、それ以外は一人につき50万円
- 「控除前の事業所得などの金額 ÷ (専従者の数+1)」で計算した金額
投資物件を売却したときは?
投資物件を売却したときは、勘定項目や仕訳の方法はどうなるのでしょうか。
賃貸経営による収益は、個人事業の場合は不動産所得といいます。
一方、賃貸用不動産を売却すると、個人の場合は譲渡所得、法人の場合は法人所得です。個人と法人とでは仕訳の方法が異なるため、注意しましょう。
個人事業の仕訳
個人事業主が投資物件を売却したとき、次のように仕訳をします。ここでは、投資物件を2,000万円で売却したとします。
個人事業主が不動産を売却したときの仕訳例
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
普通預金 | 20,000,000 | 土地 | 10,000,000 |
建物 | 8,000,000 | ||
事業主借 | 2,000,000 |
事業主借は譲渡所得の金額を「事業主借」として記録します。
譲渡所得は、次のように売却価格から土地と建物の「取得費」を差し引いた差額です。
譲渡所得=売却価格―取得費-譲渡費用 |
取得費とは、土地については購入したときの売買代金を、建物は減価償却費を計算し購入代金から差し引いた金額です。そのほか、仲介手数料や登記費用など取得に必要とした費用が含まれます。
法人の仕訳
法人が投資物件を売却したとき、次のように仕訳をします。こちらも、不動産を2,000万円で売却したとします。
法人が不動産を売却したときの仕訳例
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
普通預金 | 20,000,000 | 土地 | 10,000,000 |
減価償却累計額 | 500,000 | 建物 | 8,500,000 |
固定資産売却益 | 2,000,000 |
建物は毎年減価償却されるので、帳簿価額は減少していきます。
この事例では、最初の建物価格は850万円でしたが、当期の減価償却費は50万円であり売却時に償却費を計算すると売却益は200万円となります。
投資物件の売却は専門家に相談しよう
投資物件の場合は、個人が売却する建物でも消費税が課税され、建物価格に消費税が含まれるので「仮受消費税」の科目を使い仕訳を行います。
ただし2年前の課税売上が1,000万円超、または前年1月~6月の課税売上が1,000万円超の事業者が課税対象です。
このように、投資物件を売るときは、消費税課税業者に該当するかなども判断する必要があり、専門知識が求められます。
まずは、投資物件を専門に売却している不動産会社に相談すると安心です。税金や会計処理に関する悩みに、的確にアドバイスをくれるでしょう。
あなたのマンション・アパートの価格が分かる
コラム監修
伊藤幸弘
資格
宅地建物取引主任者・賃貸不動産経営管理士・FP技能士・公認 不動産コンサルティングマスター・投資不動産取引士・競売不動産取扱主任者・日本不動産仲裁機構ADR調停人
書籍
『投資ワンルームマンションをはじめて売却する方に必ず読んでほしい成功法則』
『マンション投資IQアップの法則 ~なんとなく投資用マンションを所有している君へ~』
プロフィール
2002年から中古投資マンションを専門に取引を行う。
2014年より株式会社TOCHU(とうちゅう)を設立し現在にいたる。