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リースバックのデメリットを解説。トラブル事例や対処方法についても紹介
近年、リースバックで自宅の売却を考える人が急増しています。
リースバックは自宅に住みながら資金を得られる方法として、注目されています。一方で、トラブルの噂も多く、デメリットや注意点を知りたい人も多いのではないでしょうか。
リースバックのデメリットとトラブル事例、対処法を解説します。また、まとまったお金を得られるリースバック以外の選択肢についても紹介します。
目次
需要が高まるリースバックをわかりやすく解説
リースバックを利用する人が急増したことにともない、リースバックを扱う事業者も多くなりました。
リースバック需要が急激に増えた背景には、住宅ローンの金利上昇不安、新型コロナウイルスの感染拡大による事業収益のひっ迫や個人の減収が挙げられます。
景気後退期になぜリースバックが頼りになるのか、リースバックを利用するメリットを解説します。
リースバックとは
リースバックとは、自宅を売却してまとまった資金を得たあとに、賃貸借契約で自宅に住める制度「セールアンドリースバック」の略称です。
自宅の売却後も住み慣れた自宅に住むことができ、将来は自宅を買い戻すことも可能です。そのため、住宅ローンで生活が圧迫されている人、急な入院で一時的にお金が必要になった人などに利用されています。
メリット
リースバックを利用する主なメリットは次のとおりです。
- 早く現金化できる
- 転居しなくてよい
- 家にかかる経費が不要になる
- 売却を近所に知られずに済む
- 資産の現金化で遺産分割がしやすくなる
- 将来買い戻しができる
早く現金化できる
リースバックは通常の売却よりも早く現金化できるメリットがあります。
通常の売却では仲介で買主を募集するため、募集から引き渡しまでに半年ほどかかることが一般的です。一方リースバックでは事業者が直接物件を購入するため、1週間から長くても1カ月ほどで現金を受け取れます。
そのため、急な入院などの出費に対応できるほか、融資のように資金の用途を限定されないため、事業資金にも充てることができます。
転居しなくてよい
通常の売却では引っ越しを伴うため、次のような手間がかかります。
- 子どもの転校
- 転出・転入手続き
- ライフラインの移転
- 荷造りや不用品の処分
リースバックなら家を売却しても転居せずに済むため、これらの手間と手続きが不要です。
家にかかる経費が不要になる
リースバックでは不動産の名義が事業者に移るため、維持費が不要になります。
固定資産税や維持費、修繕費などは買い手が負担します。そのため月々の支払いが平準化され、家計管理がしやすくなるといえます。
売却を近所に知られずに済む
リースバックなら、売却してもチラシなどで物件情報が公開されないため、ご近所に売却を知られずに済みます。
そのため学齢期の子どもがいる場合にも、同級生に知られる心配がありません。
資産の現金化で遺産分割がしやすくなる
リースバックを利用し自宅を売却することで、将来の遺産分割がしやすくなります。
資産が自宅のみの場合、不動産の分割が難しいため、遺族間でトラブルになりがちです。しかしリースバックで資産をあらかじめ現金化しておけば、遺産の分割が簡単になります。
将来買い戻しができる
一般にリースバック契約では一旦自宅を売却しても、将来買い戻しができます。
契約時に「買い戻し特約」をつけることで、将来資金ができたときに買い戻しが可能になります。そのため本当は自宅を売却したくない人が、急な出費による一時的な家計の危機で、融資の代わりにリースバックを利用するケースも見られます。
積極的に利用すべき人
リースバックを利用するメリットから、次のような人はリースバックを積極的に利用するとよいでしょう。
- 住宅ローンなど借金を完済したい人
- 事業の立て直しや入院などすぐにお金が必要な人
- 自宅を売却しても同じエリアで生活したい人
- 遺産分割のトラブルを避けたい人
- 窮状を乗り切ったら自宅を買い戻したい人
当てはまる人はリースバックのメリットを活かせるでしょう。
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リースバックのデメリット9つ
リースバックにはさまざまなメリットがありますが、同時に次のようなデメリットとリスクもあります。
- 子どもに相続させられない
- 売却価格が想定より低くなる
- 家賃が想定より高くなる
- 買主が売却してしまうことがある
- 長く住めないこともある
- 買い戻しができないこともある
- 家賃が上がることもある
- 修繕費用を負担する場合もある
- 売却価格が低いと契約できない可能性がある
実際のトラブル事例を紹介しながら、それぞれ対処法を解説します。
子どもに相続させられない
リースバック契約では自宅の名義が変わるため、子どもが相続できなくなります。
子どもがリースバック契約を知らなかったために、相続できないと知り家族で揉めてしまうケースがあるようです。
このようなトラブルを避けるために、リースバックを検討する際は子ども(推定相続人)と必ず相談したうえで契約をしましょう。
売却価格が想定より低くなる
リースバックの売却価格が想定よりも低く、必要な金額を得られない可能性があります。
リースバック物件の価格は、一般的な売却相場の70〜90%ほどです。そのため予定していた出費に不足してしまうことも考えられます。
家賃が想定より高くなる
リースバックの家賃が想定よりも高かったというケースも多く見られます。
リースバックの家賃は周辺相場を考慮せず、物件の条件をもとに算出します。一般的に物件の売却価格が高いほど、家賃も高く設定されます。家賃が想定よりも高かったために、支払いが難しくなり退去を迫られたケースもあるようです。
その場しのぎでリースバックを検討する人は多いかもしれません。しかしトラブルを回避するためにも、契約する前に家賃を払い続けられるかどうか、入念に資金計画を立てておくことが重要です。
買主が売却してしまうことがある
リースバックで「自宅を勝手に売却された」という事例もあります。
事業者によっては、リースバック物件を不動産投資物件として売却を進めることもあるため注意が必要です。リースバック物件は利回りが高く空室リスクが低いため、投資家に需要があります。
またリースバック事業者の経営悪化で、事業者が物件を売却してしまうケースもあります。借主にとってはオーナーが変わってしまうと、買い戻しに応じてもらえない、あるいは退去を迫られるといったトラブルのおそれがあります。
こうしたトラブルを避けるためには、リースバックの契約時に、契約書に売却防止の記載があるか確認しておくことと、経営の安定した事業者を選ぶことが肝心です。
長く住めないこともある
リースバックのトラブルで、自宅に長く住むつもりなのに退去を迫られたケースもあります。
リースバック契約の多くは「定期借家」のため、更新を受け入れてもらえない場合があります。定期借家ではオーナー側が更新を拒否できるためです。
一方「普通借家」であれば、借主の希望により更新が可能です。自宅に長く住みたい場合には、契約時に普通借家契約を選択しましょう。
買い戻しができないこともある
自宅の買い戻しを予定していたのに、買い戻しができなくなるケースがあります。
原因の多くは、自宅を転売されていたり、高い買い戻し価格を設定されたりすることです。転売されていた場合は、オーナーの意向により買い戻しが難しくなることがあります。
また、リースバックの買い戻し価格は諸費用を上乗せし、売却時の1.1〜1.3倍程度になるのが一般的です。
予定通り買い戻しをするためには、契約前に「買い戻し特約」などの買い戻しの条件を確認しておくことと、売却時よりも高い買取価格を想定しておくことが重要です。
家賃が上がることもある
契約時に「家賃は上がらない」と聞いていたのに、契約更新時に値上げされたというトラブル事例もあります。
不意に家賃が上がる原因として多いのは、事業者の経営破綻などでオーナーが変わり、経営方針が変わることです。家賃が上がってしまうと、住宅ローンを完済したのにまた生活が圧迫されるかもしれません。
対処法として、経営が安定している事業者を選ぶこと、契約上の売却防止の記載を確認することが大切です。
修繕費用を負担する場合もある
リースバックでは家の修繕費は原則オーナー持ちなのに「修繕費を負担させられた」というトラブル事例もあります。
リースバックでは、オーナーが修繕費用の多くを負担しますが、契約以前からの損傷については、借主が修繕費用を負担しなければなりません。借主が負担する範囲には、シロアリ被害や雨漏り補修などの大掛かりな修繕も考えられます。
また契約後の損傷でも、借主の不注意や過失による損傷の修繕については借主が負担します。この点は一般的な賃貸借契約と同様で、国土交通省の賃貸借トラブルに関するガイドラインが参考になるでしょう。
参照:住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について-国土交通省
ただし損傷が契約以前からのものか判別が難しいため、修繕費用の負担割合は事業者によって判断が異なります。トラブルを未然に防ぐためにも、リースバックの契約時には、修繕費用の負担割合や特約の有無を確認しておきましょう。
売却価格が低いと契約できない可能性がある
リースバックを契約するつもりで査定したものの、売却金額があまりに低く契約できなかった事例もあります。原因は住宅ローンの残債が売却価格を上回っていたことです。
リースバックの買取価格が住宅ローンの残債よりも少ない場合には、売却価格でローンを完済できないため抵当権を外せません。抵当権を外せないと売却自体ができないため、リースバックは利用できないことになってしまいます。
もし住宅ローンの残債が売却金額を上回っていてもリースバックを利用したい場合には、貯金からローンを完済するしかありません。
リースバック以外の選択肢はある?
リースバックのデメリットを考えても、やはり「住み慣れた家に住み続けたい」「引っ越しで生活環境を変えたくない」という人は多いでしょう。
そこで住み慣れた自宅に住みながら資金を得るリースバック以外の方法を4つ紹介します。
- 親子間売買をする
- 不動産担保ローンを利用する
- 公的融資制度を利用する
- リバースモーゲージを利用する
親子間売買をする
親子間売買とは、自宅不動産を親子で売買する方法です。
事業者を介さずに契約が成立するため、手続きに時間がかからず、仲介手数料も必要ありません。また生前贈与よりも税金が抑えられることがあります。
ただし親子間売買の住宅ローンは金融機関に渋られること、安価な取引の場合は「みなし贈与」として税率の高い贈与税が課せられることなどのデメリットもあるため、注意が必要です。
親子間売買を検討する場合には、不動産や税金の専門家に条件を確認することをおすすめします。
不動産担保ローンを利用する
不動産担保ローンは、自宅などの不動産を担保に受ける融資です。
不動産を担保にするため、無担保ローンよりも低金利でまとまった金額を用意でき、高齢者でも借りやすくなっています。20~30年の長期でローンを組めることも特徴です。
デメリットは返済能力の審査があること、各種手数料が必要なこと、返済不能時には不動産が処分されることです。また不動産の名義は変わらないため、固定資産税や維持修繕費はこれまでどおり必要です。
住宅ローンを返済中の場合には審査が通らない可能性もあるため、ローンが残っている場合はほかの方法を検討するほうがよいかもしれません。
公的融資制度を利用する
自宅に住みながら資金を調達するには、公的融資制度を利用する方法もあります。
公的融資制度の「生活福祉資金貸与制度」は、低所得者や高齢者、障害者のために、国や自治体が無利息または低金利で融資をする制度です。貸付要件と審査に通れば、融資で得た資金を生活費、教育費などのほか、入院療養や福祉用具、冠婚葬祭費用などにも利用できます。
デメリットとして、公的融資制度は審査が厳しいこと、生活の立て直しが目的のため必ずしも大きな金額の一括融資ではないこと、融資までに時間がかかることがあります。
事業者向け公的融資制度であればまとまった金額の融資も受けられますが、やはり審査が厳しく、融資までに時間がかかります。そのため現金化を急ぐ場合には、ほかの方法を利用するほうがよいかもしれません。
リバースモーゲージを利用する
リバースモーゲージは、家を担保に融資を受ける制度で、主に老後資金を借りられるシニア向けローンとして利用されています。取扱窓口は金融機関と社会福祉協議会です。
リバースモーゲージの特徴は、月々の支払いが利息のみで済むこと、元本部分は本人死亡時に、担保不動産を売却し一括返済されることです。
自宅に住みながらまとまった資金を調達できる点ではリースバックと共通していますが、リリバースモーゲージは融資のため、自宅の名義は変わりません。リバースモーゲージには次のような注意点もあります。
- 対象が60歳以上に限定される場合が多い
- 推定相続人全員の同意が必要
- 固定資産税や維持費がかかる
- 変動金利のため金利上昇リスクがある
- 担保不動産の評価格下落リスクがある
担保価値が下落すると、借入額によっては途中で返済が必要になる場合や、残債を相続人が支払う可能性もあるため、注意が必要です。
リースバックでトラブルに巻き込まれないためには、リースバック契約についてだけでなく最低限の不動産取引の知識を付けることが重要です。そうはいっても、通常は不動産に関わる契約は一生に何度も経験するものではないため、不動産取引の知識を得る機会は少ないでしょう。
リースバックの契約で損をしないためにも、信頼できる不動産事業者に相談することをおすすめします。
あなたのマンション・アパートの価格が分かる
コラム監修
伊藤幸弘
資格
宅地建物取引主任者・賃貸不動産経営管理士・FP技能士・公認 不動産コンサルティングマスター・投資不動産取引士・競売不動産取扱主任者・日本不動産仲裁機構ADR調停人
書籍
『投資ワンルームマンションをはじめて売却する方に必ず読んでほしい成功法則』
『マンション投資IQアップの法則 ~なんとなく投資用マンションを所有している君へ~』
プロフィール
2002年から中古投資マンションを専門に取引を行う。
2014年より株式会社TOCHU(とうちゅう)を設立し現在にいたる。